2016年6月24日金曜日

パン屋騒動

迎えにゆくよ、優しい声がした
だから駆け出したのに
次の瞬間、近隣のビルの工事音が雨の中
鳴り響いた
怖くなって近くのパン屋に入った

お気に入りのメロンパン
やはりパン屋のパンはちがう、と
本当は食パンが食べたかったけど
外で食パンを食べてる女は
戦時中でもあるまいしどうかと思われるからやめて
ならせめて
家に持ち帰る、ということができればいいのに
匂いがする
生きてる、食べ物を部屋に置けないわたしは
それは誘惑の量なのだけれど
早く食べなきゃ、
劣化がわかりやすいものはこちらが
気を遣い過ぎて落ち着かないから

添加物もりもりのパンは
美味しさにも健康さにも欠けるけど
密封されていてわたしを急かさない点で
いちいち香り高いパン屋で
迷ったり選んだりして買う必要がない点もよく
無機質なコンビニのパンしか
部屋には持ち込めないのであるが

お気に入りのパン
たとえば今日の体調はこういうパンを
味を、今日は新作を、とかいう風に臨機応変には
変えられない
変えるのが怖いためにもう好きなものはこれ、って
ほぼ信条みたいになっている好き、な
お気に入りのパンを買うため
列に並ぶと
皆割とトレイから溢れるほどいろんなパンを買っていて
きっと家族で分けるのだろうけと
誘惑されるがまま
あれだけの量を買えたらどんなに気持ちよかろう
主婦の特権だなとか思いつつ
列に並ぶ辛さをごまかす

自分タイミングで食べられない
もどかしさを感じながらも社会のきまりで
大人しく並んでレジに向かう

お金を取り出す
そのとき
いく人かの手に渡り汚れた小銭を
潔癖症のわたしは取り出さなくてはならない

財布のマジックで
財布にはその毒を封じ込める力があるのだと
いつからか信じていて
根拠もないけど信じないと生きていけないので
そうしているだけなのだがその本当はただの黒い財布から
小銭を取り出し

今日のお姉さんは
無愛想でもいい、攻撃的でなければ
話しかけられなければとおもい
お釣りのやりとりすらこわいから
なるべく時間や厄介が増えないように
後ろも並んでいるし
金額にぴったりの小銭を差し出す

端っこの席を探す
端、端
トイレが隣でもいいから端、端っこ
むしろ儀式的に食べる前はトイレと手洗いを
どんなに困難でも課しているため望むところだと
思いながら席に座る

荷物は多い
人に言われたよ、どこ行くのって
よく言われるよ、旅行でも行くのって
だから席は2ついる
都会にいてもそれは死守させてもらっている
ごめんなさい
どうしても無理なときは気があれて店から飛び出す

さて、やっと
メロンパン
女らしく。
女らしさの記号だから安心する。
やわらかいし
誰がどう見たって男性的、な食べ物ではないし

さっき店員がいれたビニルから取り出し
サクサクさの皮がビニルとの接触で
ビタっとしていないか確かめながら頬張る
その瞬間
自分から
乙女成分が満タンになって放出される
心躍り
そのレベルはシェイクシェイクくらい心躍りながらも
無表情で食し終わる

どうしてお腹いっぱいになっちゃうんだろう
あの感激をもう一度手にしたいと
二つ目のパンを頬張っても
もうあの一つ目のパンの味はしないとわかっている

あれは12時間の飢餓と排便後のスッキリと
幾多の試練を超えて、の一口目だ
仕事も人と会う予定もない
昼の一口目、のごはんだから
久しぶりのあのパンだからおいしかった

慣れた舌
見えないけれど幾分か埋まったお腹
後何百円足して
また人ごみに並んで
買う手間、同じ形状ではないし
さっきより幾分か冷めたパンを
また一度目の感激を味わいたくて欲するなんて
わかっていながらアホらしいし

時は
タイミングは
全てがあわさるタイミングはもう
つくりだせない
明日、にしか
最速でも明日、にしか
それを今すぐ味わいたいなんて安直で

妥協しながら少しおちた美味しさをまた手間をかけて手にするか
そのときにはまたこの店の混雑振りもどうなっているかわからないし
そもそもカバンに貴重品をいれながら席を立つのもどうかと思うし
そんなスリルを
そこまでわかっていながら
金と時間の無駄をかけるのか、ああでもまだお腹が
何かが満たされないと
この場を離れるかで迷ってしまう

外は土砂降り

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