2014年4月7日月曜日

どしゃ降りのあと
今年も見ぬまま
桜は終わってしまったかと、思いつつ
近くの公園に足を運ぶ

頭の上の桜の木の枝から
落ちてくるのは
誰の雫だろうか

透明な雫は
私の顔の前で
いつも醜い色に変わる

ひらひら
落ちてくる花びらが
薄桃色の桜の花びらだった時
私たちは
ふと春に救われる
けれど

ひらひら
今年の夜桜の下で
見えていたのは
色のない空と欠けたままの月

夜の匂い
雨の後
群青色の苦い風の味だった

帰り道
人に踏まれ
アスファルトにこびりついた
桜の花びらを見た

2014年4月3日木曜日

半月

今日も空が半分に割れてしまった

また無理をした
鮮明な輪郭の半月

あなたを楽しませるために
生きているわけじゃないのに

失恋しても
私は私のものだ

ずるいあなたが言わないさよなら、を
空に投げたら
今度は
地面が半分に割れるだろうか


2014年4月2日水曜日

眠れぬ夜

時計の針が五時をさす
抜け殻みたいな毛布の中で
あの頃の夢や
醜い感情にけがされている

洗練された丘は
私には似合わずに滑り落ちた
そしたら前より
深い穴に落ちていた

今日の日が迎えに来なくとも
私は立ち上がる
あの空が私に微笑みかけるまで

夜のとばりを破るように
あの人のやさしい横顔がよぎる
時計の針が五時をさす
私の嫌いな時間
嫌われた私という存在

抜け殻みたい
抜け殻みたい

2014年2月14日金曜日

母と娘

母は
あの頃
何を思いながら
私の髪を撫でたのだろう

父は働き
家では何もしなかった
呑気に笑う父をしり目に
母は唇をかみしめ
妹を抱いた

夫は働き
家では何もしない
呑気に笑う夫をしり目に
家事をこなして
背を丸める

この道
子を産んでも
この道
いつまでも

夫の寝息
妻のため息

2014年2月7日金曜日

時が過ぎても

やさしい目をした
青い髪のおにいさん
わたしの頬の冷たさを
さわることもないくせに
肌質すら分かったような顔をした

雪が降るその日に
私はステージへとおりたった
周りはざわめきも喧騒も
とりたてずに
ただひたすらに動いていた

私のてのひらに
しみた一粒の涙は
憧れの線に乗って汽車を
どこまでも走らせる

ワルツ
ワルツ
あのひとがくれた音の質を
ワルツ
ワルツ
今、どこを歩けばいいのか

ワルツ
ワルツ
曇り空の向こうにむかって
唱える
ワルツ
ワルツ
すべての罠が嘘であっても
すべての罪に殺される

ワルツ
ワルツ

2014年2月5日水曜日

帰省

あの頃の街が
忘れられないと思うのは
この街に
私ひとりだけか

旧友に会ったとして
また一からやり直すのも
面倒だと
街をふらふら
ひとり歩き

駅の出口に
大きな木があって
今頃は実がなっている
この街を捨てられない
あの木は何を見てきたか

木陰によりそい
夕暮れをまつ
私は誰に会いたかったのだろう

街も知らぬ間に
歳をとっていた

また孤独になってしまった

ひとり、帰る。

今 おりたった
ふるいまちに
今では迎えに来る人もいない

静かな町よ
あの頃は
右も左もやかましく
建物にさえ
押しつぶされそうに窮屈だった

この街のにおい
これは私にもある「ふるさと」
抱きしめていい
私のにおい

いつもクールな顔をして
やり過ごしてきたけれど
ひとりぼっち
駅のホームに佇めば
また心は
誰かを呼んでいる

人を求めやまない
ありきたりな
人の心の淋しさよ

秋風の吹く
この駅の駅長は
むかしとは違って
今は何やら都会顔

たどりついた街

バカらしいと
見知らぬ街の山裾が
雨の中
頂を天に向けまっすぐのばし
こっちを見て嗤ってる

「知りたかったんだ」
「見つけたかったんだ」

雲は流れ
時は行き過ぎ
身のおきどころも分からぬまま
己の人生
投げうったとて
川から海へと運んで行ってくれる
わけじゃあるまいし

一つを信じて突き進んだ
その結末がこんなにも
心を
隅っこに追いやるとは

街中に煙がたちのぼる

私の生まれた街は
色鮮やかな花々や
季節のうつろい
賑わいがあったっけ


2014年1月20日月曜日

交差点

初詣に行った折には
雪がちらつき
降りてきた雪の粉は
髪に染みたまま
今日の一人見やる
アスファルトを照らしている

いとも容易く
破られてしまった約束は
今日の限りなく広がる空に
行き場なく咲いている

大切な誓いを失って
濡れた髪が
風に任せ
揺れるのを止められず

道路にひろがる無機質な光でさえ
生の悦びを
呆気なく感じるように
受け止めてしまう


握りしめた手のひらを開くように
幼き涙の結晶は
今、太陽のもとで
解けて消えた

からっぽの胸に
容赦無く入り込む都会の昼は
私を大人に変えてゆく