2013年12月7日土曜日

戦うこと

川が流れ
古の港に着き
川は
赤らむことを覚え
濁流の中で
鯉が一匹、体をくねらせながら
鱗の銀色を鈍く光らせながら
上を目指し
うなっている
闘っている、強く

涙や悲しみといった
憐れみを感じさせず
弱さを隠しているという
痛々しい感じでもなく
ただ
強く、強く
身をよじらせて
上へと向かっている

その力強さと
たくましさと威厳に
周囲の水の粒すら引き連れ
泡粒まで巻きこんで
川の流れすら
変えんとする勢いで
上を目指している

他のものたちは
後ろに付き添って
甘い汁を吸いたがる
てっぺんの景色を
労力なく見たがる

見たがる、という観客であり
荷物を
なんともせず
むしろ力にすら変えて
よじ登っていく鯉

空気は次第に
夜へと運ばれていくのに
あの川には
赤々とした命が
我、とばかりに主張している

何か新しく
何か熱い事が起こっていると
町の人々が気付くまでに
そう、時間もかかるまい

我々が
憎しみから得るものは
少なく
弱さを抱えつつも
明日を信じ、勇敢に戦うことで
何かを
何かをきっと
変えてゆけるのだ

鯉の鱗がはがれおち
やがて美しい天女のような
白魚になった時
滝のてっぺん
あの鯉は、勝利を勝ち取っているのだろう
美しい光の中
輝くだけの
天女のようになるのだろう

失敗

蜜つぼが
割れる
悪魔の時間に
私の
考えていたことが
雨雲のうねりとなり
心にはよろこびとなり
よろこびとなり

半月に
白っぽい半月に
垂れさがる憂鬱の恩は
とめどなく
地面からあふれ出る
温泉のようにたえまなく
あたりにひろがり

私から出た血は
今日階段ですれ違った
過去の誰かと
同じ顔をした沁みとなり
パンツに色づく

私は
それをひとさしゆびで
そっと掬い
舐めたくなるのだ

2013年5月10日金曜日

見つめる


目も眩むような恋をして
私達は寄り添い
夏を乱し
冬を超えた

辿り着いた宿でも
伏し目がちなあなたは
今、何を想う

あなたの頬を突き刺す
この明かり
揺れる光を手探りに
知りたいと求めたなら
いつもの結末が
そっと迎えにくるだけ

川に笹舟を流すように
すべての罪を洗えたら
遠い海に帰れる

あなたの在り方は
どこまで追いかけても
捉えられぬ
月明かりのよう

2013年5月4日土曜日

蜜をからめあげ
窓の外では若葉が青々と
鬱蒼と
森のように茂り
形なきものに名を与え
重く垂れさがるのは干し柿

縁側の昼過ぎ
並ぶ車両と駆け抜ける音が
静かな部屋に
斜めにかけたカーテンの隙間より
入ってくる

散らかりすぎた
痛みも
あの暑さよりは、かなしくて
切った糸の先に
温めあったことなど忘れた
そういう私が、見える

2013年4月30日火曜日

黒い鐘

やわらかく、殺されたことがあった。

夏が西日で遮られるとき
貴方の影が霞んだようで
忘れた心が
海の轟のように荒れ狂う
あの夢の端っこを
結んだ人の眼は
狂気と憂いに満ちて
暮れゆくあの日の階段から
転がり落ちたあとの静けさ
何でもなさ
死ねなさを想う

蛙が鳴いた
ひっくり返って泣いた
馬鹿に大きな目玉を見開き
彼としか訪れた事のない喫茶店に
母と妹を呼んだ

代わる代わる満ちてくる夕陽に
私は答える術もなくして
亡骸になった鳩に
萎びた羽に
何と呼び掛ければよかったのか
生きられないという
目をするほど
私は何処に
己の誇りを持って行ったのか

こんな風にしか存在できない中で
泣く事もできない
誰かのルールと
誰かの在り方に
私の何かがこびりつき
捨て去る勇気なく
大きな口を開けた瓶に
すがりついた
凝固物みたいに薫る

2013年4月15日月曜日

うねりまく

わたしは
もし自由にできるなら
あの人のそばを飛びたい
一時のかなしみに
すべてを壊してしまいたいのに
今日も私は生きていますし
私は今日も過ちを犯す
あの人を
信じられなくなるたびに
この靴ひもは
窮屈になります

ちぎれるような
刃音を聴いた
私は黙って空を見上げた
どの地上にも
この雨は降っていると
知っているのに
待つ
傘もなく